莉子、図書委員の返却リストを片手に芽依の机に近づく。
莉子「芽依、昨日の返却分、まだ出してないよね」
芽依「あ、ごめん。今日中に出す」
芽依、鞄からノートを取り出しながら視線を逸らす。
莉子「なんか眠そうだね。夜更かし?」
芽依「別に。ちょっと考え事してただけ」
莉子、首をかしげるが、それ以上は聞かずリストに視線を戻す。
莉子「そう。じゃあ昼までに図書室、お願い」
芽依、小さく頷いて窓の外に目をやる。
莉子、リストの次の名前へ、そのまま隣の机へ移る。
渡辺美咲、上履きに履き替える。ローファーを下駄箱に押し込む音が響く
佐々木蓮、少し遅れて登校し、あくびをかみ殺しながら隣の列に立つ
蓮「……眠い」
美咲「寝てないの、また」
蓮「配信、じゃなくて、ゲームの方。深夜まで」
美咲、靴紐をほどく手を止めずに小さくうなずく。それ以上は聞かない
蓮「渡辺さんは早寝派?」
美咲「別に。人並み」
下駄箱の扉が閉まる音。二人とも上履きのまま昇降口を離れ、別の方向へ歩いていく
購買前、パン棚の列に愛梨と莉子が並ぶ。昼休みの人波でレジ前が詰まっている。
愛梨「莉子、焼きそばパンある?」
莉子「もうないですね。残ってるのメロンパンとコロッケパンだけ」
愛梨がコロッケパンを一つ取り、値札を見て財布を開く。
愛梨「ねえ、芽依のことなんだけどさ」
莉子「夜更かしの理由、聞いてもはぐらかされました」
愛梨「だよね。うちが聞いたときも流された」
莉子が小銭を数え直す。列が一人分進む。
莉子「深追いしない方がいいタイプかもです、あの子」
愛梨「そうかもね。でも気になるっしょ」
昼休み。窓際、芽依が頬杖をついて外を見ている。陽菜が水槽の横からじょうろを提げて通りかかる。
陽菜「芽依ちゃん、めだかの水換えた日って覚えてる?水曜だっけ」
芽依「火曜。昨日やったばっかり」
陽菜「あ、そっか。じゃあ今日はいいんだ」
陽菜がじょうろを窓辺に置き、水槽を覗き込む。芽依は視線を戻さない。
陽菜「芽依ちゃん、今日ちょっと元気ない?」
芽依「別に。寝不足なだけ」
陽菜「ふーん。大輝くんもさっき同じこと言ってた。示し合わせたのかと思った」
芽依の頬杖の指が一瞬止まる。陽菜は気づかず水槽の水草をつつく。
芽依「……そういうの、いちいち報告しなくていいから」
体育館、対人パスの列。結衣のトスが浮いて、ネットの外に転がる。
「七海」
結衣がボールを拾いに走り、列に戻る。次のトスも同じくらい高い。
「七海」
「結衣」
七海、笛を首から外して結衣の顔を覗き込む。結衣は目を逸らしてボールを拾い直す。
「結衣」
七海はそれ以上聞かず、笛を吹いて次の組を呼ぶ。結衣は列の後ろで水筒に手を伸ばす。
「結衣」
七海は答えず、コート中央でボールを構え直す。
莉子「芽依、今日も朝から静かだった。昼休みも机で寝たふりしてた」
愛梨「寝たふりは草。莉子、よく気づいたじゃん」
莉子「気づいたというか、目が開いてた。3回瞬きしてた」
愛梨、スマホを両手で持ち直す。既読はすぐつくが、返信までの間が長い
愛梨「あたし的には大輝くん絡みだと思ってる。名前出た時の反応が露骨すぎ」
莉子「そこ、自分は正直わからなかった。愛梨の観察の方が当たってる気がする」
愛梨「深追いはしない。向こうから言うまで待つのがうちの流儀」
莉子、了解のスタンプだけ送る。会話はそこで途切れる
打てるだけマシだ、今日は。
下書きの数だけ、言わなかった自分が増えていく。